「緊張します……こちらに、先帝陛下がお住まいなのですよね?」  目の前には大きなお屋敷がある。現在の皇帝であるガルヴェイス・カイルザード陛下のお父上で、帝位を退いた先代のグファイト様がお住まい……らしい。建物自体の見た目の地味さは帝都にある皇宮に近いものを感じる。 「お前、直接会うのは初めてか? 本人に対してその呼び方はするなよ。小突かれるからな。あのスケベ親父、色々小うるさいんだよな」  ガルヴェイス陛下がそんなことを口にする。その呼び方というのは、先帝陛下と呼ぶのは駄目だということなのか。 「グファイト様は皇帝の座から退いてから、自分はもうその立場からは離れたのだということを強調したいようなのだ。なので、呼ぶときはグファイト様、とお呼びしなさい」  隣にいる父……リックハルト・ホワイトルークがそう説明してくれる。先帝陛下……じゃない、グファイト様が帝都から少し離れたこの街で暮らしてるのも、同じような理由だろうか。 「はい、父上。グファイト様はどういった方なのですか? もちろん、在位中のお姿などは存じていますが……」  お見かけしたことはあるが、直接お会いしたことはない。在位中は新聞などでも情報が少しは入ってきたが、帝位を退いたのはもう十年ほども前のことで、その頃自分はまだ子供と言える年齢だった。 「グファイト様は真面目でお優しい方だ。私も公私ともにとても世話になった」 「真面目ねえ……ドスケベだからやりたいことやるために、やるべきことはちゃっちゃと終わらせるっていうだけだぞ。それに、優しくないとは言わないが、色々面倒な性格だぞ」  陛下はグファイト様に対しては辛辣だ。お父上のことがあまりお好きではないのだろうか。 「……確かに少々気難しい方ではあるから、粗相のないようにな、サイファート」  父の言葉に返事をしようとしたら、すぐに陛下が口を挟む。 「いつも粗相するのはお前だろ。いろんな意味で」 「むむ……確かにそれは概ね事実ですがっ……」 「ほら、こんなところでいつまでもしゃべってないで行くぞ」  陛下は躊躇なく屋敷の扉を開く。鍵はかかっていない……のではなく、魔術錠が陛下を認識して開いたようだ。堂々と中に入っていく陛下の後に父が続き、自分もその後に続いて屋敷に足を踏み入れる。 「おーい、スケベ親父、生きてるかー」  陛下がそう呼びかけると、すぐに誰かがやってきた。グファイト様……ではなく、整った顔をした十代半ばほどの少年だ。そうか。グファイト様は屋敷の使用人としてこういった少年を住まわせているのだという。色々と事情を抱えている少年が多いようで、ここから学校にも通っているらしい。 「ようこそいらっしゃいました、ガルヴェイス陛下。ただ今グファイト様のお部屋へとお連れいたします」 「おう。久しぶりだな、リンオール。今日はお前の当番か。前に来たときより、ちょこっと背が伸びたな」 「はい。少しだけですけど」  陛下は顔見知りらしい少年の頭をくしゃくしゃと撫でる。少年も嬉しそうだ。自分もされたいです。 「よし。お前にもお土産だ。ちょっと遠くに行ったときに買ってきた菓子だぞ。えーと、これは多分、バナナの形のケーキみたいなやつだな。同じのは買ってないから、あの甘党ジジイに取られないように気を付けろよ」 「ありがとうございます。では陛下、こちらへ」  陛下は何やら箱を取り出して手渡す。甘党ジジイとはもしかしてグファイト様のことか。あ、もしかして自分も何か手土産を持参した方が良かったのだろうか……と思いかけたが、父も何かを用意していた様子はないので、あまり気にしない方がいいのか。  リンオールと呼ばれた少年の後に続いてある部屋の前へ。リンオールがノックをしようとすると、その前に陛下が遠慮なく扉を開け放ってしまった。 「入るぞー。お、スケベ親父のくせに、今日は普通に仕事してるんだな」 「そんなに毎回、お楽しみ中に踏み込まれてたまるか、バカ息子。今日はお前達が来るのは分かってたからな」  陛下の言葉に応えたのは、それなりに高齢の男性。銀髪に赤い目は陛下と同じで、顔は陛下にある程度似ているが、陛下に比べると……その、顔が恐い。陛下よりは少し小さいがかなり大柄で、歳は六十を過ぎているはずだが、その肉付きは衰えを感じさせない。直接会ったことはなくても誰なのかはよく知っている。先代の皇帝、グファイト・カイルザード様だ。  着ている黒い軍服は我々の着ている深緑のものと色違いで、黒を着ているのはグファイト様や特別親衛隊のラムゼイス殿など、ごく限られた者だけだ。それは軍属ではあるが、軍の命令系統には縛られない、独立した特別な立場であることを意味する。 「お久しぶりです、グファイト様。こちらは……」  父が一歩前に出て挨拶をする。自分を紹介しようとしたところでグファイト様が立ち上がってこちらにやってきた。白木の杖のようなものを突いて近付いてきて、頭を鷲掴みにされる。自分も体格はそれなりに良い方だと思っていたが、父も陛下もグファイト様も大柄なのでこの中では自分が一番小さいことに気付かされた。 「おう。手土産だな。ありがたくいただいておくか。お前、名前は?」 「は、はいっ。自分は、サイファート・カイルザードと申します。本日は父の見張り……ではなくてお供として参りましたっ。軍では警備隊に所属していますっ」 「ほう。じゃあ今日からそこ辞めて、うちに勤めるんだな」 「いえっ、そんなつもりでは……」 「なんだそうか。まあいいや。とりあえずこいつを味見するから、お前らはとっとと出てけ」  味見……もしかして、自分はここでグファイト様に抱かれるのか。なんと光栄なっ。 「ま、まあまあっ、陛下、息子も嫌がって……いませんけども、まだこうしてお訪ねしたばかりで……あいたっ」  グファイト様を止めようと割り込んだ父の頭を、グファイト様の杖が軽く小突く。ああ、うっかり陛下と呼んでしまうとこのように小突かれるのか。 「相変わらずだな、スケベ親父は。そうやって来る奴来る奴食い散らかしてるんだろ」 「む。俺がいつ食い散らかしたって? 俺はいつも、相手を可愛がってるだけだ。味見した奴は全員抱え込む気満々だぞ。食い散らかしてるのはお前の方だろうが、バカ息子め」 「俺にとっては国民全員が恋人みたいなものだからな。一発ヤったきりだからって、捨てたつもりなんかねえよ」 「都合のいい事ばっかり言いやがって。このバカ息子が」 「何だと、この、スケベジジイめ」  緊迫した空気の中で、陛下とグファイト様が言葉を交わす。これは止めた方がいいのだろうか。やはり二人は仲があまり良くないのか……と思っていたら、また父が止めに入る。 「まあまあ。陛下も、グファイト様も。折角親子が久しぶりにお会いしたんですから、もう少し仲良く……」 「うるせえな。一番だらしない下半身の奴が偉そうに」 「ひい、すみませんっ。グファイト様っ。しかし……」 「なんだ、何か反論があるか?」 「いえ、その……だらしないのは下半身だけではないのでっ」  反論とも言えないその言葉に、グファイト様も陛下もあきれて何も言えなくなる。父の下半身がだらしないのはもうどうしようもない。そもそも自分に兄弟が多い(しかも異母兄弟ばかり)のもそのだらしなさのせいだ。父のことは尊敬しているが、その部分に関しては尊敬できない。 「よし。ガルヴェイス、やるぞ。こいつ、一発懲らしめてやろう」 「おう。自分の息子の前で恥ずかしい思いさせてやろうぜ」 「あああ、そんなっ……」  結果的には同じ考えを持ったことで、親子の言い合いは止まった。父はこれを予測していたのだろうか。自分が醜態をさらすことで二人の仲を……うーん、そこまでの考えがあったようには見えない。  グファイト様は応接テーブルの上を片付けると、そこに父を仰向けに転がす。着ていた服を脱がしてパンツ一枚の姿にさせた。 「こいつ、こんなやらしい下着穿きやがって。何期待してやがったんだ?」  陛下がそんなことを言いながら父の尻をぴしゃりと叩く。父が穿いていたのは、スポーツ用のサポーターのような、前だけを覆うものだった。尻はほぼ剥き出しだ。普段穿きの下着として身につけるものではない。 「ああ、すみませんっ。つい……ひいっ」  今度はグファイト様が尻を叩く。尻たぶを平手で直接なので、それなりに音が響く。脱がされて尻を叩かれた父は、何故か股間を盛り上がらせていた。とても大きい父の一物は、完全に勃ち上がってしまうとあの下着では収まりきらないだろう。何しろ既に先端ははみ出してしまっている。 「えーと、ローションはここだよな」  陛下はデスクの引き出しを開け、中からボトルを取り出す。その中身のローションを手に垂らすと、父の尻穴に触れた。指先を少しだけ挿れた状態で呪文を唱える。魔術で尻を綺麗にしているのだろう。 「まずは俺が、少し広げてやろう。まあ、お前は広げなくたって平気で呑み込んじまうだろうが」  陛下が指を根本まで突き挿れる。父の尻は指一本程度では何の抵抗もなく、それを見られるのが恥ずかしいのか、耐えるように目をぎゅっと閉じている。 「ううっ、ふううう……」  父は吐息を漏らしながら、どんどん股間を盛り上げていく。やがて限界が来て、下着では押さえきれずに一物がこぼれ出る。その間も陛下の指による責めは続き、いつの間にか指は三本も呑み込んでしまっている。 「もうこうなっちまったらこんなの邪魔だろ。脱がせるぞ」  陛下は指を引き抜くと、父の下着を脱がせてしまう。父の勃ち上がった一物が露わになる。とんでもなく大きい。魔術の補助もなく入る人は限られているだろう。 「そろそろ交代だ。続きは俺がやる」 「おう」  陛下とグファイト様はお互いの手を打ち合わせてから場所を交代する。グファイト様も陛下と同じように指にローションを垂らすとやはり同じように指を突き挿れる。 「あ、ああ、うああああっ、ああ、あがあああっ!  外から見ても陛下のやっていることと何が違うのか分からないが、グファイト様に交代した途端に父の反応が激しくなる。暴れないように陛下に押さえつけられながら、快感なのか大きな声を上げる。 「ああ、駄目ですっ、それは、ああ、そんなっ、あああ、陛下ぁっ!」  父は身体をびくびくと何度も震わせて、一物から白濁した液体を漏らす。責めは液体が出なくなるまで続けられ、父は声を上げすぎて早くも声が嗄れ始めていた。グファイト様の責めが大人しくなったところで陛下が声を掛ける。 「どうだ、リック。久しぶりに味わう親父の指は」 「はいい、とても、ああ、いえ、気持ち、良すぎて……おかしくなりそうですっ」 「ふん、そうか。じゃあそろそろ次に……といきたいところだが、また呼び方を間違えたから、もうちょっと続けてやる。そら、おかしくなってもいいぞ」 「そんなっ、あああ、あああああっ!」  グファイト様の指がしつこく父の尻穴を弄る。端から見ていると決して激しい責めには見えないのに、父の感じ方はとても激しい。陛下に押さえられていながらも、身をよじって暴れている。しばらくそれを続けられると、父は一際大きな声を上げる。 「うおあああ、ああ、あがあああっ!」  父の一物から、透明な液体が噴き上がり、絨毯をぐっしょりと濡らす。噴出はしばらく続き、それが止まる頃には父はきつい訓練を終えた後のように疲れて見えた。 「出し切ったか? じゃあそろそろ……ぶち込んでやるか」  グファイト様は指を引き抜くと、ズボンの前を開けて一物を引っ張り出した。老いを感じさせないほど力強く勃ち上がったそれは、長さと太さのバランスが整った形の良い一物だ。結構な大きさがあるが、父のように無駄に大きいのとは違う。何度かお相手をさせていただいた陛下のものとよく似ている。  グファイト様は一物にローションを塗りつけると、それを父の尻穴に突き立てた。指でしつこく弄られたことで充分に広がっていたそこは、大きな一物をすんなり呑み込んでしまう。 「ああ、あああ……」  大きさに慣らすようにゆっくりと抜き差しされ、父がまた声を漏らす。グファイト様の腰の動きは少しずつ大きくなっていくが、あまり激しくはならない。それでも父は悲鳴のような声を漏らし続けているので、グファイト様は激しさに頼る必要がないほどの技術があるのだろう。  しばらくの間、グファイト様はテーブルに仰向けに寝かされた父の尻を掘る形で責めていたが、ある時急に、傍らにあった白木の杖を手にした。それから片手で父の身体をすくい上げるように持ち上げ、父がグファイト様の身体に捕まるように促す。そして。 「じゃあ、いくぞ。そらっ」  グファイト様は気合いの声を上げ、父の身体を持ち上げた。形で杖を突いた状態で、父の大きな身体を片手で支えている。おそらくはただ筋力だけで支えているわけではないのだろうと思う。足腰が悪いから杖を突いているはずなのに、そんなことをしてしまうグファイト様の力強さと精力に、自分も惹かれてしまっている。 「うああ、ああ、グファイト様っ、これは、ああ、いけませんっ、あああ、陛下っ、おお、おああああっ!」  父はグファイト様にしがみつき、声を上げて身体を何度も震わせる。父がどんなに声を上げても、グファイト様は父の身体を上下に揺すって下から腰を突き上げるのをなかなか止めない。 「ふうう、リックハルト、どうだ、久しぶりの俺のチンポは」 「はいい、とても、うう、気持ちがっ、あああ、良いですっ! ああああっ!」  また父が身体を大きく震わせる。そのあたりでグファイト様は父の身体をテーブルに下ろし、そのまま今度は激しく抜き差しをする。今度は自分が快感を得るための腰の動きのようだが、それで父が感じなくなるなんてことはないので、父は泣き叫びっぱなしだ。 「そろそろ出すぞ。どこに欲しい?」 「ああ、そのまま、奥に欲しいですっ。あああ……」 「よし。いつもなら、さっきまた呼び間違えた罰として口にでも出すところだが……久しぶりだからな。今日はこのまま出してやるっ。ああ、出るぞっ。おおおっ……」  グファイト様は奥まで突き挿れた状態で動きを止める。全て出し切ってから引き抜くと、父の尻はぽっかりと口が開いたままだった。そして、腹の上などは自分が漏らしたらしい汁でドロドロに汚れていた。 「じゃあ、次は俺だぞ。そら、今度はこっち向きで掘ってやる」  グファイト様が離れた途端、入れ替わりに陛下が父に近付く。父の身体を動かして、今度は四つん這いにさせる。陛下も自分の一物を引っ張り出してローションを塗りつける。父親のものには決して負けない、力強く勃ち上がるそれを手で押さえつけながら、父の尻穴に一気に突き挿れる。 「んがあああっ!」  父はあれだけ叫び続けても、強い刺激にまた声を上げた。グファイト様に掘られた直後なので遠慮する必要はないという判断なのか、陛下は最初から激しく抜き差しをする。 「いい具合にほぐれてるな。親父のも気持ちいいだろうが、俺のだって悪くないだろ」 「はいぃっ。陛下の、ああ、一物も、大好きですっ。とても、あああ、気持ちが、良いですっ!」  父は陛下に何度も激しく突き挿れられながら、どうにか声を絞り出す。陛下は腰の動きに変化を加え、下からすくい上げるように突き上げたり、腰で文字でも書くかのように動かしたりして責めている。自分が同じようにされているときの事を思い浮かべながら見ていたら、陛下と目が合ってしまった。陛下はにやりと笑う。自分は心の中が見透かされているような気持ちで、少し恥ずかしかった。 「そろそろ出るぞっ。俺もこのままケツの中に出してやろうかと思ったが、この間もケツの奥にくれてやったばかりだからな。今日はこっちにくれてやるか」  陛下は一物を引き抜くと、父の顔の前に移動する。そして父の頭を掴むと、だらしなく口を開けた父の顔目がけて射精した。大量の濃い精液が頭から口元まで降り注ぐ。陛下は更に、一物を筆のようにして精液を顔中に塗りたくる。それから精液まみれの一物を父に舐めさせてからやっと離れる。顔を精液まみれにした父は、満足そうに笑みを浮かべていた。 「さてと。いつもの茶番はこれぐらいにしてと。リックハルト、お前、自分で漏らしたところは片付けとけよ」 「はいっ。グファイト様っ」  既に自分の後始末は済ませ、デスクに戻っているグファイト様がそう言うと、父は慌てて立ち上がる。裸のまま床に這い蹲り、呪文を唱えて魔術で絨毯と床を綺麗にしていく。床を掃除する前に自分の顔と身体を少し綺麗にした方がいいのではないだろうか。 「ほら、親父。こっちが本当の手土産な」  同じく後始末は済ませた陛下が、持ってきた荷物から何かを出してデスクに並べていく。 「これとこれは、なんか糖分として吸収されない甘味料、とかを使ってるシロップと砂糖だってさ。甘味は普通の砂糖より控え目みたいだから、味見しながら使ってみてくれよ。親父、糖分摂りすぎるなって言われてるだろ」 「おお、そんなものがあるのか。お前にしては気が利くな」  陛下の手土産のボトルを、手にとって眺める。知らない言葉で書かれているようで、なんという品なのかもよく分からない。だがグファイト様は嬉しそうだ。 「で、こっちはアッシュの手作りの菓子だ。親父も好きだろ、こういうの」  続いて陛下が取り出したのは焼き菓子だ。同じ形の四角いパウンドケーキが二つ。色が違うので味も違うのだろう。アッシュというのは陛下の御子息であるアシュレム殿下のことだろう。自分も個人的に少し交流させていただいている。息抜きに菓子などを作ることがあり、自分もそれをいただいたことがある。殿下は基本的に真面目な性格なので、手作りの菓子も安定して美味しい。 「お、うまそうだ。早速食うか。サイファート、たぶん部屋の外にリンオールってのがいるから、声掛けて茶を用意してもらってくれ」 「はいっ」  グファイト様にそう声を掛けられたので、返事をして部屋の外に出る。すると、すぐ目の前に先程の少年、リンオールがいた。折りたたみ式の椅子に座り、本を読んでいた。部屋から出てきた自分の姿に気付くと、すぐに立ち上がった。 「あ、終わりました? じゃあお茶淹れてきますね」  どうやらよくある流れのようで、こちらが言葉を発する前に状況を理解して立ち去ってしまった。お茶準備ぐらいは手伝おうと慌てて後を追い、清潔そうなキッチンでお茶の用意を手伝う。魔術で補助をしていくつかの手順を省略すると、リンオールは目を輝かせて礼を言った。少し手伝ったぐらいでそんなに喜ばれると、反応に困ってしまう。しかし良い子だ。グファイト様の指導が良いのだろう。  お茶一式を載せたワゴンを押して運び、ノックをしてから先程の部屋に戻る。グファイト様と陛下は応接用のテーブルに着いて待っていた。カップにお茶を注いで二人の前に置き、手渡されたパウンドケーキもナイフで切って皿に載せて配る。 「サイファート、お前も座って一緒に食え。折角のアッシュの手作りだ」 「あ、はいっ。では、お言葉に甘えて……」  自分の分もお茶とケーキを用意して椅子に座る。グファイト様と陛下がケーキを口に運ぶのを見てから、自分もフォークで切り分けつつ口に運ぶ。適度な甘味があって美味しい。しかし、ごく普通のパウンドケーキとは違う風味がある。恐らくこれは、にんじんなどの野菜が混ぜられているのだと思う。甘い物好きのグファイト様や、ジャンクフード好きの陛下のお体を心配してこういうものを作ったのかも知れない。あっという間に一切れを食べ終え、香りの良いお茶を飲む。気持ちが落ち着くと、部屋の中に足りないものに気がつく。 「あの……すみませんが、うちの父はどちらに……?」  戻ってきてから父の姿が見えない。脱がされた服はそのままなのに、父の姿は見えない。裸のままどこかへ行ってしまったのだろうか。 「心配する必要はないぞ、サイファート。私はここにいるっ」  父の声。聞こえてくる方へ移動し、グファイト様の後ろ側へと回り込むと……そこに父の姿があった。父は身体を丸めた状態でグファイト様に腰掛けられていた。 「どうした、サイファート。俺の椅子がそんなに気になるか」  グファイト様はさらりとそんなことを言う。勿論気になってしまう。少し席を外している間に何がどうしてこうなったのか。 「息子よ。父は今、椅子業の方を頑張っているぞ。敬愛するグファイト様の椅子になること。それは一つの幸せの形なのではないかと私は思うのだっ」  父がこのようなおかしな事を言うのはいつものことだ。しかし、自分が椅子として陛下に座っていただいていることを想像すると、それはそれで悪くなかった。 「こいつが久しぶりに椅子にされたいと言うからな。こうして座ってやってるんだが……まあ、座り心地はあまり良くないぞ。リックハルト、椅子業に専念するならもう一回りぐらい肉を付けなきゃあ駄目だぞ。筋肉も脂肪もバランス良くな」 「やはりそうですか……しかしあまり身体を重くしすぎると副業の軍人としての仕事に支障が……」 「それじゃあ椅子業は諦めるんだな。そら、立った立った。俺はもっと座り心地の良い椅子に座る」 「はい……残念ですが」  グファイト様が立ち上がって別のちゃんとした椅子に座ると、父は起き上がってその場を移動する。やっと服を着てから、一つめのパウンドケーキがあと一切れ分だけになっているのに気付く。 「はっ。いつの間にあとそれだけにっ。陛下、グファイト様、お願いです。私にもその、アシュレム殿下の手作りのケーキを……」  父は深々と頭を下げ、そのまま姿勢を低くして地面にうずくまるような形に。椅子になっていた時と似た姿勢だ。 「これぐらいはやってもいいんだが……お前にアッシュの手作りのをやるのってちょっと躊躇するんだよな……」  陛下は皿の上のケーキを父に渡すかどうかを迷っている。どうして父にだけためらうう必要が? 「お願いしますっ。大事に使いますからっ!」 「……食べ物に対して『使う』とか言ってる奴にはやりたくないんだよ。大事にしてどうすんだ。今すぐ食うならくれてやってもいいが……持ち帰るのは絶対に駄目だぞ。おっと、ここで『使う』のはもっと駄目だ」 「むううっ……では、今すぐにいただきます……」 「サイファート。こいつがおかしなことしないように、お前が食わせてやれ」  グファイト様にそう指示を出されたので、父を隣に座らせて、ケーキを一口大に切り分けながら父の口に運ぶ。父はそれをゆっくり味わい、呑み込んでからしゃべり始める。 「うむ、これは、にんじんを中心に野菜がいくつか入っていますなっ。ああ、アシュレム殿下の手作りはお二人への愛に溢れていて素晴らしいっ。勿論、味も素晴らしいですがねっ。ああ、息抜きにこのような高尚な趣味をお持ちだなんて、やはり殿下は素晴らしいっ。時間があれば男を食い散らかしてばかりの我々とは違って……」  殿下のことになった途端流暢になる父の言葉を、グファイト様が遮る。 「……お前と一緒にするな。それ以上余計なことを言うと、今度はテーブルやらせるぞ」 「テーブル業ですか……興味はありますが、やはり直接座っていただける椅子業の方がっ」  またおかしな事を言い始めた父を黙らせるため、ケーキをまた父の口へと押し込む。食べている間は大人しいようなので、ケーキとお茶を口に運んでしばらくの間黙らせることに成功する。 「ところでガルヴェイス。アッシュの様子はどうだ?」 「ああ、いつも通りだよ。ラムゼイスもいるし、仕事の方は大丈夫だろ」 「そうか。それならいい」  そう。今日はアシュレム殿下が、陛下がいない状況で皇帝の代理として仕事をする訓練、ということらしい。仕事の補佐役としてラムゼイス殿を残し、陛下はあえて帝都から少し離れたこの街へやってきたのた。他にも色々細かい目的はあるらしいが、あくまで帝都から離れること自体が目的だった。 「ああ、できることならラムゼイスと立場を入れ替わってアシュレム殿下のお手伝いをしたい……いや、しかしグファイト様に会いに来られる機会もそんなに多くは……むむむ……ああ、しかしお父上もラムゼイスもいない状況で、殿下と仲良く仕事や合間の息抜きなどをしたいっ。勿論ついでにあちらの方も抜きますがっ」 「そんなこと言ってるうちはアッシュに近付けさせてたまるか。ほら、俺も親父もいるんだからいいだろ」 「むうう。勿論お二人のことも敬愛しておりますし、大好きですがっ」  父のアシュレム殿下に対する気持ちが強すぎるので、周りの人が協力してうまく父を殿下になるべく会わせないように工夫しているらしい。なので父は未だにアシュレム殿下とまともに会ったことがないのだ。 「お前がもしアッシュとそんな関係になったら……カイルザード家の親子三代とセックスすることになるな。ラムゼイスはもうとっくに済ませてるが」 「むむ、ラムゼイスめ、私の夢の一つを簡単に達成してしまうとは……、はっ、しかし私は先々代のゲリューグ様にもいやらしいことをされた事があるので、既に親子三代は済ませていますっ! あとは殿下といやらしいことをすれば前人未踏の四代! この生涯を掛けて達成せねばならない目標ができましたっ!」  ゲリューグ・カイルザード様……もう亡くなっている、グファイト様のお父上であり、先々代の皇帝陛下だった方だ。皇帝だったのは自分の生まれる前のことなので、さすがによく知らない。 「そうかよ。アッシュがもうちょっと大人になった頃に、自分の意志でお前に会おうとするときは止めないから、それまで性欲が衰えないように気を付けろよ。まあ、お前の性欲がなくなることなんてないだろうが」 「私、『代わりのいる男』などと呼ばれるほどに秀でた特徴のない男ですが、性欲の強さと一物の大きさは自信がありますっ。いつか、殿下が御自身でこの一物を求めてやってくることでしょう。私の知る限り、少なくとも殿下から三代さかのぼっても全員とんでいえもないドスケベなのですから、殿下がそういったことを好きじゃないわけがないのですっ」 「随分な自信だな。まあ、気長に待て」  陛下はどうにか、父がその時を待つという方向性へと誘導し、安心した様子で二杯目のお茶を飲む。 「ところでお前ら、今日は泊まっていくんだろ。三人一緒がいいか、それとも個室がいいか、リンオールに言って案内してもらえ。部屋は空いてるから、来客用の一番いい部屋でもいいぞ」  いい部屋など落ち着かないだろうと思う。実家のホワイトルーク家は一応名家と呼ばれているので、建物もそれなりに大きいのだが、自分には軍の寮の狭い部屋の方が合っている。いい部屋は陛下に使っていただくとして…… 「私はどこか空いているスペースがあればどこでも。雑魚寝には慣れておりますので。ああ、廊下でも構いませんよ。可愛らしい少年にうっかり踏まれるのもなかなか楽しいのではないかと」 「おかしなところに寝てたら邪魔に決まってるだろ。素直に部屋借りとけ。お前らは親子だし、一緒の部屋でいいだろ。俺はもう、泊まる部屋は決めてあるからいい。お前らだけ案内してもらってこい」  というわけで、自分は父と共に寝室に案内されることになった。最初に案内された部屋はちょっと広すぎたので、もう少し狭い部屋に変えてもらった。自分も父も、贅沢をしたいという欲求はないので、意見が対立することはない。  夕食は四人で同じ食堂に集まって食べた。野菜が多めで比較的薄味のメニューは、やはりグファイト様のお体を気遣ってのものだろう。派手さはないが品の良い味で、とても美味しかった。  日課の鍛練も終えて、身体も洗って。することもないので床につく……わけだが、どうも眠れる気がしない。仕事も家事も何もしないで寝るというのが落ち着かない。  父は一人でどこかへ行ってしまったし、一人残された自分、ここにいても寝ることしかできない。何か手伝いでもできることはないか、出歩いてみることにした。  何となく、昼間も訪れたキッチンを覗く。昼間とは別の少年が何かを準備していた。小さい鍋と牛乳瓶が用意されているので、ホットミルクでも準備しようとしているらしい。 「何か、手伝いましょうか」  声を掛けると、少年は驚いた様子でこちらを見た。上から下まで観察して、思い当たったようだ。 「あ、お客様の……ええと」 「サイファートです。何もしていないと落ち着かなくて……ホットミルクですか?」 「はい。グファイト様がご所望なので。二人分欲しいと」  少年は小さい鍋を魔術式のコンロに載せて、牛乳を注ごうと……しているところでそれを止めさせる。 「温めるぐらいなら、鍋を使わなくても」  先に冷たいままの牛乳を二つのカップに注ぎ、呪文を唱えて魔術で熱の玉を作り、カップの牛乳に沈める。牛乳が丁度よく温まったところで熱の玉は消えてなくなる。自分もホットミルクを時々飲むので、手順を省略して洗い物なども減らせるこういった魔術を、自分で試行錯誤して使うようにしていたのだ。指定した温度まで上げてくれるので、牛乳以外にも役に立ってくれる。 「凄いですっ。僕もできるようになりたいです」 「ああ、それは……グファイト様に相談して、魔術指導のある学校に行かせてもらうか、もしくは軍に入れば教練学校で魔術も教えてもらえるので。あとは本人の努力次第でどうにか……」 「うーん、軍に入ったらもうここの使用人続けられなさそうだし……グファイト様と離れたくないです……」  どうやらグファイト様は子供達にもしっかり慕われているようだ。怖そうに見えても優しい方だというのは、子供達の表情を見ればそれれが事実なのだとよく分かる。  ミルクの入ったカップを二つ、トレイに載せて運んでいく。グファイト様がいる寝室の場所は少年に聞いたので、自分が一人で持っていくことにした。問題なく寝室までたどり着き、ノックをして声を掛ける。 「グファイト様、ミルクをお持ちしました」 「ああ、すぐに受け取るから、その辺りに置いて……ん、お前、もしかしてサイファートか?」 「はい。ミルクを準備しているところに遭遇しまして。手持ち無沙汰で落ち着かなかったので、少しお手伝いをと……」 「お前ならいいか。入ってこい」 「はい。お邪魔いたします」  扉を開け、ミルクを持って部屋に入る。グファイト様の寝室は外からの客を入れることを想定してないからか、飾り気はまるでなくて、大きなベッドの他はテーブルやソファ、本棚ぐらいしかない。家具はどれも地味で、その機能性だけを重視したもののようだ。  グファイト様はTシャツ姿でベッドに腰掛けていて、下はズボンを脱いでいて黒いビキニパンツ一枚だけ。今はそのパンツも下まで下ろしていて、股ぐらには誰かが顔を埋めていた。あの銀髪は、陛下以外の何者でもないだろう。どうやらグファイト様の一物をしゃぶっているらしい。こちらの存在に気がついたようで、Tシャツと褌だけを身につけた陛下は、口を離してこちらを見る。 「ああ、サイか。いつもならお前も参加させるところだが、今は俺が親父を独り占めする時間だからな。そこで見てる分にはいいが、手は出すなよ」 「……一応、感染症などの情報の交換という目的があるんだからな」  そういうことか。自分も父と似たような目的で身体を重ねることはある。身体に蓄積された情報をやりとりするには、精液に載せて送り込むのが安全で効率が良い。特に感染症の情報を送り込むのはとても有用なので、あちこちで様々な男と身体を重ねたがる父の悪癖も、役に立つことがあるのだ。  とりあえずホットミルクをテーブルに置く。すぐには飲まないようなので、保温の魔術をかけておく。そして陛下がグファイト様の一物を口で愛撫するのをじっくり見る。  湿った音を立てて陛下が一物をしゃぶる。先端やカサの裏などを舌先でくすぐるように舐めてみたり、亀頭から根本まで舌をしっかり這わせてみたり。睾丸を舐めたり口に含んだり、内腿など周辺を舐めてみたり。色々なところを責めてから今度は先端から口に含んでいく。グファイト様の一物は結構な大きさがあるが、陛下は難なく根本まで呑み込んでしまう。 「おお、ガルヴェイス、気持ちがいいぞ……」  外からは分かりづらいが、陛下は口全体で様々な動きをして責めてくる。激しい音を立てなくても、とても気持ちがいいのだ。自分もされたことがあるから分かる。  グファイト様はしばらくの間、陛下の頭を撫でながら快感にを委ねていたが、促されて陛下の頭を掴み、自ら腰を動かして陛下の喉を掘るかのように形で快感を得る。 「ふうう、よしっ、そろそろ出すぞ。いいな?」 「んん、んごおっ、おお、おごほおおっ……」  喉を突かれ続けている陛下は苦しそうな声を上げながら、どうにか頷いたような頭の動きをする。そして…… 「ああ、出るぞっ。ガルヴェイス、おおおっ……」  グファイト様が声を上げて陛下の頭を抱え込むように押さえつけ、動きを止める。それから陛下の頭を引き剥がして、強引に口付ける。陛下は嬉しそうな表情でグファイト様に抱きついた。しばらく抱き合った後、今度グファイト様が立ち上がり、入れ替わりに座ろうとした陛下を止めて、立ったままにさせる。陛下の褌をはぎ取って下半身を丸出しにすると、一物を責める前に透明な液体の入ったボトルを手に取る。昼間見たものと同じローションだ。 「今日はたっぶり感じさせてやるからな」  陛下はローションを塗りたくった指を陛下の尻穴へ挿入していく。あの中では指がどのように動いているのか。陛下は気持ち良さそうに声を上げる。 「ああ、駄目だ、親父ぃ、それ、気持ちいい、からっ、俺、すぐ出ちまう……」 「すぐに出してしまってもいいぞ。全部受け止めてやる。そらっ」  グファイト様は指を尻穴へと突っ込んだまま、更に陛下の一物を口に含む。今度はグファイト様か自分から頭を上下に激しく動かして責めていく。指だけでもあれだけの反応だったのに、それに一物への刺激が加わることで、その時が訪れるのはあっという間だった。 「親父っ、駄目だっ、ああ、出る、出ちまう、おお、おああ、ああああっ!」  陛下はグファイト様の肩に手を置いて身体を支え、声を上げながら何度も身体を震わせた。全てを出し切ったのか、グファイト様の口と指が離れると、陛下は崩れ落ちるようにベッドに腰を下ろした。 「あー、すげえ気持ち良かった……」 「相変わらず早かったな。あんなので男を満足させられるとは思えないほどの早さだったぞ」 「仕方ねえだろ。親父にあんなのされたら、誰だってあっという間だろ。親父上手すぎるんだから、いい加減そこんところをもっと自覚しろよな」 「む、俺が悪いってのか。上手くて悪いわけがないだろうがっ」  ああ、また口論が始まってしまった。この二人は結局、仲が良いのか悪いのか…… 「悪いなんて言ってねえだろ。折角大好きな親父とやらしいことしてるのに、すぐ終わっちまうのが勿体ないって言ってるんだよ」 「終わるのが嫌なら何度でもやればいいだろうが。そら、もう一発出させてやるっ」  グファイト様は陛下の身体をベッドに転がすと、先程のように尻穴を指で弄りながら一物をしゃぶる。 「あっ、こらっ、それ、駄目だって、ああ、親父、いいっ、あああああっ!」  陛下はまたすぐに声を上げ、身体を震わせた。射精してもしつこくしゃぶり続けるので、陛下は言葉にならない声を上げて悶える。声が嗄れるまで責め続けられ、陛下は更にもう一発射精してしまったようだ。  グファイト様は口と指を離すと、陛下の身体を適当に拭いてから、ホットミルクを要求した。トレイごと持って近くへ移動すると、グファイト様はまだ熱いはずのミルクを一気にあおる。火傷しないんだろうか。  自分の分を飲み干すと、今度はもう一つのカップを手に取る。今度は一口分だけすすり、陛下に口付けてミルクを飲ませる。陛下の喉がごくりと鳴る。陛下はもっと、と言わんばかりの甘えた表情で次を待つ。グファイト様も普段よりずっと優しい表情で、二口目を同じようにして飲ませてやる。それで今度はグファイト様の方が我慢できなくなったのか、カップをこちらに押しつけると陛下を思いきり抱き締めた。そのままベッドに転がり、抱き合ったまま動かなくなる。 「うむうむ。相変わらず仲の良い親子だっ。見ているだけでこちらも幸せな気持ちにはなるが、あそこに混ざりたくてたまらなくなるっ」  いつの間にか父が隣にいた。もしかして、ずっと隠れて見ていたのだろうか。 「自分は、最初はお二人は仲が良くないのかと心配していましたが……そんなことはなかったんですね」  そのことを口にすると、父は小声で教えてくれた。 「ああ、仲が悪いわけがない。普段はお互いに憎まれ口を叩いているが、嫌いなわけでは決してない。陛下は時々、こうして子供のように甘えに来るのだ。グファイト様はそんな陛下のことが可愛くてたまらないようなのだ。そして私は、そんなお二人を見ているととても幸せな気持ちになるっ。勿論いやらしい気持ちにもなるがっ」 「うるせえぞ、リックハルト。これ以上うるさくしたら追い出すからな」  興奮して声が大きくなってしまい、父はグファイト様に怒られてしまった。さて、自分はそろそろ寝よう。カップなどを片付けてから。  翌日。  帰る前にグファイト様に挨拶したときに、こんなことを言われてしまった。 「サイファート。あれ、本気だからな。もし軍を辞めてうちに勤める気になったら……報酬もそれなりに出すし、今度はお前にも気持ちいいことしてやるぞ」 「はあ……」  困った。グファイト様にこんな風に誘われるのはとても名誉なことだが、軍を辞めて、帝都を離れるとなると、そう簡単には受け入れられない。誘われたことを父に話したら、父はこんな提案をした。 「軍を完全に辞めてしまう必要ははない。幸い帝都とこの街はそこまで離れていないから、例えば一月ごとに帝都とここを交互に生活の拠点とすればいい。今月は帝都で軍人として、来月はグファイト様の元で。そうなってくれると、帝都とグファイト様の間の連絡係としても都合が良い。よし。グファイト様にそう提案してこよう」  そして、本当にグファイト様にその提案を受け入れさせてしまった。というわけで、来月はお試し期間としてこちらでグファイト様のお手伝いや子供の相手などをすることになった。 「お前がこちらにいるときは、時々私も様子を見に来るからなっ。ふはは、これでどうにか、陛下のお供でなくてもグファイト様に会いに来る口実を作ることができたっ。よくやった、サイファート。お前を連れてきて良かった!」  随分積極的だと思ったらそういうことだったのか……そんなにしてまでグファイト様に会いに来たいのか。 「自分、まだ何もしてないんですが……」  まあ、いいか。次に来るときは子供達の相手がちゃんとできるように、教練学校で必要な勉強などをしてこよう。  さあ、そろそろ迎えの飛龍が来るはずだ。帝都に帰ろう。