「やっと見つけたっ! 俺と勝負しろっ!」  突然やってきてそう叫んだのは、派手なガウンのようなものを羽織った獣人種の男だった。顔を見る限り獣因子は熊型だ。男が指差した方向では、四人の獣戦士が一緒に鍛練をしていた。 「……今日は誰の客だ?」  犬型の獣戦士であるシリウスがぼやくように言う。彼には心当たりがないようだ。 「えーと、自分じゃあないっす。たぶん」  そう否定するのは牛型の獣戦士であるアルデバラン。四人の鍛練のはずだったが、結局彼ばかりが扱かれる流れになるのはいつものことだ。一流の獣戦士である他の三人が、まだ若いが才能がある(と、他の三人が見ている)アルデバランに稽古を付けるのだ。特に熱心で厳しいのがシリウスで、今日もアルデバランはシリウスに何度も倒されていた。しかし体力はあるのでまだまだ平気そうだった。 「俺は……一度は戦った覚えがあるが、時間内に勝負が付かなかったな。しかしそれもかなり前のことだ。勝負を付けるためにこんなところまで追いかけてくるほどではないだろう」  ライオン型の獣戦士であるレグルスは相手に見覚えがあるようだ。彼はかなり多くの獣戦士と戦ってきているので、この程度の関係の相手はいくらでもいるのだろう。 「私も戦った覚えがあるぞ。その時は私が勝ったのだったな。もしかして、その時のサポーターを取り戻しに来たのか? もう手元にはないのだが……」  鷲型の獣戦士であるアルタイルは勝ったことがあるようだ。獣戦士は特別な下着であるサポーターを身につけていて、それがないと獣戦士としての力を発揮できない。獣戦士同士の戦いでは勝った方は負けた方からサポーターを一枚奪うのが決まりだが、それ以外にも交換したりすることもあるので、いつまでも手元にあるとは限らないのだった。 「それで……結局貴様は誰の客なのだっ? 我々の楽しみを……四人の屈強な獣戦士が目の前で組んずほぐれつキャッキャウフフしている様子を眺めながらのティータイムという優雅な時間を邪魔したのだから、それなりの理由でないと許さんぞっ」  と、杖を突きつけるのは白い龍人のトゥバーン。レオニスと共にお茶を飲みながら四人の鍛練を眺めていたのだが、それを邪魔されて怒っているようだ。 「決まってるっ。そこのお前だっ。『ヨルニカガヤク』!」  シリウスは獣戦士としての名前を呼ばれてそちらをぎろりと睨み付ける。その威圧感に、ガウンの男も少し怯んだ様子を見せる。 「俺はお前と戦ったことなんてないぞ。誰かと間違えてるんじゃないのか?」 「いいや、間違ってないっ。とにかく俺と戦えっ!」  そう返して派手な動きでガウンを脱ぎ捨てる。全身のほとんどは黒い獣毛に覆われているが、胸は三日月のような形に白くなっている部分があるのが特徴的だ。穿いているサポーターは黒いビキニ型だが、レグルスが穿いているものと比べると股上が深く、生地に光沢があるので印象はかなり違う。武器らしきものは何も持っていないので、徒手格闘か特殊能力で戦う獣戦士だろうとレオニスは予想した。黒い獣毛に黒いサポーターなので。一瞬裸に見えないこともない……などと余計なことまでレオニスは考えてしまった。  シリウスが熊型の獣戦士に近付き、向かい合う。黒から赤褐色の獣毛に覆われた筋骨隆々の肉体に、カップ状の特殊な形状のサポーターを身につけている。身体の大きなシリウスと並ぶと、熊型の獣戦士はかなり小柄に見える。身体は厚い筋肉に覆われているが、身長は普通人種の平均的な身長とさほど変わらない程度だ。 「なんで俺と戦いたいんだ?」 「それは……その名前だっ!」 「名前だと? この俺様の……獣戦士としての名前が気に入らないってのか」 「そうだっ。その名前は……俺が名乗るべき名前だったんだ!」  熊型の獣戦士のその言葉に、シリウスは首を傾げる。 「何を言ってやがるんだ? 獣戦士の名前ってのは一人一人違うものだ。名乗るべき名前はもう他の獣戦士が名乗ってる、なんてことはねえんだよ。分かってるだろ?」 「いいやっ。何事にも例外はあるっ! 俺は自分の、『ヨルニカケユク』という名前がどうしてもしっくり来ていなかった。だがある時、お前の名前を……『ヨルニカガヤク』という名前を知ったとき、理解したんだ。そうだ。俺は本来『ヨルニカガヤク』という名前を名乗るはずだったんだ。だが現役の獣戦士と同じ名前がつくことはありえないから、別の名前になってしまったんだと」  熊型の獣戦士……ヨルニカケユクはそう熱弁する。しかしその場にいた他の獣戦士達の反応は冷静で、それがあり得ないことだと分かっているようだった。獣戦士の細かいルールなどは知らないレオニスは、隣のトゥバーンの方を見た。すると、獣戦士に詳しいトゥバーンはレオニスにこっそり教えてくれた。 「獣戦士の名前というのは自動的に決まるものなのだ。教官が決めているわけでもない。その名前が獣戦士の外見や能力など様々な特徴を表し、場合によっては眠っている力のヒントになったりもする。一人一人の特徴が全て同じということがない以上、名前が同じになることもないのだ。双子の獣戦士であっても能力も名前も違うからな」 「そういうものなんだ……」  恐らくは獣戦士ならみんな知っていることで、ヨルニカケユクも理解しているはずのことなのだ。それなのに、どうしてか違う名前が自分のものだと思ってしまったのか。 「若い獣戦士には時々いるんだ。伸び悩んでいるときに、自分の名前はこれで正しいのか、などと思ってしまう者が。別に名前が能力を極めるわけじゃあないから、もし名前が変わったとしても能力が変わるわけじゃないんだが……」  レグルスがそう教えてくれる。もしかしてレグルスも名前で悩んだことがあるのだろうか……と思いかけたが、レグルスの獣戦士としての名前は『モエルタテガミ』であり、赤みがかったタテガミを表した名前であると思ってしまえば間違ってるなんて思いもしないだろうということに思い至った。実際は眠っていた能力のことを指し示した名前でもあったわけだが。 「まず言っておくが……お前が勝ったところで、俺の名前をお前に譲るなんてことにはならない。獣戦士としての名前は自由に変えられるような軽いものじゃないからな。それは分かってるよな?」  シリウスの言葉に、ヨルニカケユクはうつむいて視線を外しながら応える。 「……ああ。少なくとも正式に名前が変わるなんてことはないのは分かってる。これは俺の気持ちの問題だ。一度お前と思い切り戦わないと、俺は前に進めない気がするんだ」 「そうか。ならいい。それともう一つ。俺に挑むってことは、この俺様に勝てるつもりで来てるんだよな?」 「その……つもりだ」 「俺に正式に挑むつもりなら、負けて俺に差し出すサポーターを決めとけ。正式な勝負なら、礼儀として俺は全力でお前をぶっ倒してやるからな。最短五秒で終わるけどいいよな」 「それは……困るっ。俺は今、この一枚しか持っていない。これを奪われたら……」  その言葉を聞いて、レオニスはサポーターを奪われて全裸にガウンを羽織って帰っていくヨルニカケユクの姿を思い浮かべ、見てみたいと思ってしまった。。 「ふむう。それはそれでなかなか……」  そんなトゥバーンのつぶやきを聞いて、レオニスはトゥバーンが自分と同じようなことを考えていると確信した。二人は何かと気が合ってしまうのであった。 「強くなりたいなら、そういうのを恐れてちゃあ駄目だな。サポーター全部なくなって、丸出しで訓練場に戻るのも一度ぐらいは経験しとけよ。そこにいるレグルスなんて、結構負けてるから何度も訓練し直してるんだぜ」 「うむ。確かに俺は、穿いていたサポーターを奪われたらそのまま訓練場に戻っていたぞ」  名前を出されたレグルスがさらりとそんなことを言うので、レオニスはまたその様子を思い浮かべてしまった。想像の中のレグルスは裸にマントを羽織り、堂々と歩いていた。隣のトゥバーンはレグルスをじっくり眺めながら想像しているようだった。 「サポーターを全て失ったのはまだまだ経験の浅い頃の話だが、いつも穿いている大事な一枚を奪われたときは、何も穿かずに戻っていたな。ああ、訓練のし直しは負けたときはいつもしていたぞ。俺は特に秀でた力のない獣戦士だったからな。勝つためには努力を重ねるしかなかった」 「そうか……いや、しかし……」  レグルスの言葉を聞いて、ヨルニカケユクは迷っているようだがどうしてもそのサポーターを失いたくないようだ。そこにシリウスが提案する。 「じゃあ、今回はとりあえず模擬戦ってことにするぞ。一回戦ってみて、勝てる見込みがありそうだと思ったんなら次は正式に挑戦してこい。それでいいな?」 「……分かった。じゃあ、今回は模擬戦で……」 「よし。じゃあ早速始めるか。たっぷり可愛がってやる。レオ、またいつもの壁用意しとけ」 「はーい」  呼ばれたレオニスは巻き尺のような形状のものを地面に伸ばしていく。すると、その上に透明な壁が現れる。レオニスの祖父、アクワイリが戦いを見守りたいレオニスのために用意してくれたもので、魔法陣を線状に作り替えたものだという。アクワイリを尊敬するトゥバーンはその技術に関心し、すぐに同じ発想の技術を研究し始めているようだ。  シリウスとヨルニカケユクが向かい合って立つ。それ以外は全員壁より後ろに引っ込んでレオニスの用意したシートに腰を下ろす。それを確認してから、二人は獣戦士としての名前を名乗り合う。。 「『ヨルニカケユク』、行くぞっ!」 「『ヨルニカガヤク』、行くぜっ」  二人の戦いが始まった。獣戦士同士の正式な試合だったら。シリウスは手加減せずその力を振るっていたことだろう。しかし訓練試合ということで、相手の力量を見るつもりらしく、先に手を出そうとはしない。  ヨルニカケユクは正面からシリウスに向かっていく。お互いの両手をがっちり組み合って力比べのような形に。体格差もあって少しずつヨルニカケユクが押されていくが、ヨルニカケユクは声を上げると逆に押し返し、シリウスを組み敷こうとする。だがシリウスはうまく力を逃がして堪えると、再びヨルニカケユクが圧倒される。瞬間的には大きな力を発揮できるようだが、長くは続かないようだ。  やがてシリウスがヨルニカケユクの頭を小脇に抱えるようにして締め上げる。ヨルニカケユクはどうにか逃れようともがくが、この状態では先程のような力を発揮しきれず、シリウスも相手に合わせて姿勢などをうまく変えながら締め続けるのでなかなか外れない。まだまだ余裕があるのかシリウスは、ヨルニカケユクの頭をもしゃもしゃと撫でる動きを混ぜていく。 「あれ、何してるんだろう……」  レオニスが疑問を口にすると、応えてくれたのはシリウスを兄貴分として慕っていたこともあるアルデバランだった。 「さっきシリウスの兄が『可愛がってやる』って言ってたじゃないっすか」 「えっ、それ、そういう意味だったの? てっきり……」 「もちろんそういう意味じゃないんすけどね。力の差がある相手に稽古つける時とか、たまにああいうことやるんすよ。自分もやられたことあるっす」 「ああ、相手を挑発して奮起させようとしているんだな。シリウスにとっては稽古を付けてやっているというような認識なんだろう」  一緒に観ているレグルスがお茶を飲みながら反応する。それだけの力量差があるとレグルスも見抜いているようだ。  シリウスの挑発の効果があったのか、力が抜けかけていたヨルニカケユクがシリウスの腕を掴む。さっきまではまるで解ける気配のなかった拘束が、少しずつ解かれようとしていく。完全に抜けられる前に、シリウスは自分から解放して少し距離を取った。 「最低限の根性はありそうだな。それに、力も意外とあるな。よし。お前、武器は使わないみたいだからな。拳でも蹴りでも、好きなように打ってこい」 「……うう、うああああっ!」  シリウスの言葉に、ヨルニカケユクはためらいながらもしっかり構えて、声を上げながらシリウスの獣毛に覆われた分厚い胸を平手で打つ。しかし…… 「こんなもんか? さっきの勢いはどうしたんだ。俺が見本を見せてやるよ。こう、やるんだよっ!」 「ぐあああっ……」  シリウスが同じように相手の胸を平手で打つ。その一撃でヨルニカケユクは倒れ、しばらく動けずにいた。レオニスは、もうこれでおしまいか、と思いかけたが、シリウスの目を見てそんなことないと思い直す。ヨルニカケユクが立ち上がり、再び向かってくるのだと信じている目だ。  少し時間はかかったが、ヨルニカケユクは呼吸を整えながらどうにか立ち上がる。それから声を出して気合いを入れ、再び平手を打ち込んでいく。一発打つと一発返される、というのを何度か繰り返すうち、シリウスの反応が変わってくる。 「段々良くなってきたな。今の、ちいっとは効いたぜ。そんなんじゃあまだ俺には勝てないけどな」 「ぐうう、うあああああっ!」  ヨルニカケユクは一際大きな声を上げて、腰を落として渾身の一撃を叩き込む……が、シリウスはその手を払いのけるように受け止め、今度は顔に平手を叩き込む。その一撃でヨルニカケユクは一瞬意識を失ったように崩れ落ちかけるが、すぐに立ち直る。それを見て、シリウスがにいっと笑みを浮かべる。 「よし。じゃあ次だ。お前のもっと得意なやつ、あるんだろ。何でもいいからやってこい。今度はこっちも棒立ちじゃあないけどな」  シリウスの誘いに、ヨルニカケユクは姿勢を低くして一気に間合いを詰める。捕まえようとするシリウスの手をかいくぐって背後に回ると、シリウスの腰をに腕を回してがっしりと抱え込む。そのままシリウスの大きな身体を持ち上げて、後ろに反り投げる。シリウスはどうにか頭を打つことは避けて、すぐに立ち上がる。 「まあまあだな。次だ!」  今度はヨルニカケユクはすぐ近くに生えていた木をするすると登り、木の枝に立ってそこから後ろ向きに跳び上がる。そのまま回転しながらその身体そのものをシリウスに叩き付ける。シリウスは咄嗟に受け止めようとしたがそのまま後ろに倒れ、ヨルニカケユクはすぐに立ち上がると、もう一度木に登って再び跳ぶ。 「ぐえあっ!」  おかしな声を上げて地面に倒れたのはヨルニカケユク。木を登って飛び降りるまでの間にシリウスが立ち上がり、落ちてくるヨルニカケユクを後ろに向かってぐんと伸びるような蹴りで叩き落としたのだ。  シリウスは倒れたヨルニカケユクにゆっくり近付く。シリウスが次の攻めに移る前に、ヨルニカケユクは急に起き上がる。その勢いのまま、シリウスの首を目がけて腕を鞭のように振るって叩き付けるしかしシリウスは身体を反らしてぎりぎりで避け、逆にその腕を掴んで引き倒し、そのまま腕に関節技を極める。ヨルニカガヤクは右腕を関節が外れそうなほどに引き延ばされて悲鳴を上げる。 「ぐああああっ!」 「そら、どうだ。これぐらいはどうにかして見せろ。武器でも魔力でも特殊能力でも、使えるものは何でも使え。お前の力はこんなもんじゃねえだろ!」 「ぐ、うう、うああああっ!」  ヨルニカケユクは今までで一番大きな声を上げると、腕に絡みついているシリウスの身体を無理矢理持ち上げて、近くの木に叩き付けて無理矢理技を外させる。シリウスもダメージがあるだろうに平気な顔をして立ち上がる。ヨルニカケユクは腕へのダメージと、今の一瞬に力を使いすぎたのか反撃に移ることができず、呼吸を整えている。 「いいじゃねえか。お前を一人前の獣戦士と認めてやる。こっちも得意分野で戦ってやろう」 「うう……分かった。来いっ!」 「よし」  シリウスが指を二本揃えて突き出すと、その指先から光弾が発射されてヨルニカケユクへと迫る。シリウスには太陽のエネルギーを貯め込み、それを利用する特殊能力がある。特に得意なのは、エネルギーをこのように光弾などにして放つ技だ。正面から受け止めるつもりだったのか、ヨルニカケユクは光弾をまともに喰らってしまう。爆発するような衝撃によってヨルニカケユクは後ろに倒れる。だがすぐに立ち上がった。 「よく耐えた! だが、俺はこんなのは何発でも撃てるんだぞ。そら、そらっ!」  シリウスはわざとヨルニカケユクにぎりぎり当たらないように光弾を続けて何度も放つ。いくつかはレオニスの目の前の壁にぶつかって小さく爆発する。ヨルニカケユクは光弾に当たらないように気を付けながら、シリウスへと駆け寄る。今度は後ろには回らず、正面からシリウスを抱き締めるように抱える。両腕も一緒に抱え込み、そのまま力を込めてぎゅっと締め上げる。 「おっ、おお、それ、効くぜっ。だが、腕なんて動かせなくたって、どうにでもなるんだぜ!」  シリウスの全身が輝く。指ではなく全身から放たれたエネルギーが、密着しているヨルニカガヤクの全身を焼く。それには耐えきれず、ヨルニカケユクはシリウスを解放して地面に倒れる。 「どうした。まだ立てるだろ? こんなのは俺の力のほんの一部だぜ。俺に勝つつもりだったんなら、もうちっと頑張ってみろよ」 「ぐうう、うう、うああああっ!」  ヨルニカケユクは再び気合いを入れて立ち上がる……が、立っていられずぺたんと尻餅をついてしまう。そこからは立ち上がれず、そのまま仰向けに倒れてしまった。もう体力の限界らしい。 「ま、こんなもんか。悪くはなかったが、まだまだ修行不足だな。俺に正式に挑戦するのはまだやめとけ。耐久型みたいだが、俺の光弾を耐え切れてない。力だけはあるみたいだが、あの怪力を最初から安定して発揮できなきゃあ俺には勝てねえぞ」 「うう……」 「ま、そもそも俺の力とは相性が悪いよな。昼間の俺は太陽のエネルギーを補給できるから、耐久型の強みが活かせないもんな。耐え続けたって俺が責め続けるだけだからな」 「そんな……じゃあ、夜だったらっ。お前に、勝てる可能性はあるのか?」  シリウスの言葉に、ヨルニカケユクはそんな疑問をぶつける。それを聞いたシリウスは、にいっと笑みを浮かべた。 「お、夜の俺に挑戦してくるか? いいぞ、どうなっても構わねえんなら、受けて立ってやる」  不穏な言い回しに、ヨルニカケユクはすぐに返事をすることをためらう。そこに、アルタイルが近付いてヨルニカケユクを止めに入る。 「ヨルニカケユクよ。夜のシリウスに挑むのはやめておいた方がいい」 「どうしてだ? 夜はエネルギー補給ができないってことだろ。それなら……」 「冷静に考えてみろ。彼は太陽のエネルギーを得てそれを扱う特殊能力を持つ。それなのに、『ヨルニカガヤク』という名前を持っているのだ。それがどういうことか分からないか?」 「それって、まさか……」 「なんだよ、アルタイル。バラしちまうなよな。折角、久しぶりに俺の力が本領発揮できるところだったのによ」  シリウスはアルタイルの頭を小突くように拳を軽く触れさせて笑う。 「俺が貯め込んだ太陽のエネルギーはな、夜にはその力が何倍にも強くなるんだよ。勝つことだけを考えるなら、最後にお前に喰らわせたあれ、拡散型の光線を全力で放つだけで大抵の相手は倒れる。お前はそれに耐えられるか?」  シリウスのその言葉に、ヨルニカケユクは反射的に出かけた言葉を飲み込み、少し考えてから答えた。 「無理だ。今はまだ……だがいつか、乗り越えてみせる」 「……よし。いい答えだ。もっと強くなって、いつか本当に俺を倒しに来い」 「ああ、いつか、必ず……」  シリウスはヨルニカケユクのことが気に入ったのか、その頭をもしゃもしゃと撫でる。ヨルニカケユクは嫌がる様子はなく、心地よさそうに見えた。 「さてと。戦いも終わったことだし……レオの用意してくれたお茶でも飲め。ああ、今はジュースのがいいか」  シリウスはヨルニカケユクを無理矢理座らせて、コップを持たせる。レオニスがリンゴジュースを注いでやると、ヨルニカケユクは一礼してからそれを一気に飲み干した。 「はあ、ああ、ありがとうございます。美味しかったです」 「お前なあ。まずはちゃんと挨拶してからだろ。ちゃんと自己紹介もしてないだろ?」  シリウスが大きな手でヨルニカケユクの頭を鷲掴みにする。それが痛いのかどうかはレオニスからは分からなかった。 「ひいいっ、すみませんっ。俺は……その、自分はっ。『獣王の庭』の獣戦士、ヨルニカケユクですっ。他のブックで格闘家のようなこともやっていて、そちらではフェクダという名前を使用しています。呼びやすい方でお呼び下さいっ」 「よろしくね、じゃあ……フェクダ。僕はレオニス。この『林檎の森』でヒーローとして戦ってくれるレグルスとかのサポートとかをしてるんだよ。戦う力とかはないけど、お菓子作りとかは得意だよ。はい。良かったら食べてよ」  レオニスがバスケットの中身を指し示すと、ヨルニカケユク……フェクダは一礼してそれを一つ手に取る。 「それは蜂蜜入りのスコーンだよ。そのまま食べてもいいし、このリンゴジャムを塗ってもいいし……甘いのが好きなら蜂蜜を足してもいいかもね。この蜂蜜もリンゴの花の蜂蜜なんだよ」 「蜂蜜……大好きです。じゃあ、お言葉に甘えて……」  フェクダはスコーンをまずはそのままかじる。その一口で、フェクダの緊張がほぐれたように見えた。フェクダは続けてジャムを塗りつけたり、蜂蜜を塗ったりして食べる。気に入ったのか、二つ、三つと手を伸ばし、スコーンを食べる。それを見ていたシリウスがまた、フェクダの頭をがっしりと掴む。 「お前なあ。一人で食い尽くすなよな。俺の分もあるんだぞ」 「ひいいっ、すみません、とても美味しかったので、つい……」 「気に入ってくれたのなら良かった。シリウスも食べてね」 「おう。もちろん食うぞっ」  その後はしばらくみんなでお茶を楽しんでから、シリウスがフェクダをどこかへ連れて行った。二人がこのあと何をするのか、シリウスの今までの行動から推察すると大体分かってしまうのだった。 「ここは……」 「俺の部屋だ。今はここのブックを拠点にしてるからな。部屋ぐらいはあった方がいいだろ」  決して広い部屋ではないそこを、大きなベッドが占拠している。隣は居間で、狭いキッチンも一応あるが、シリウス自身が使うことはないので狭さを実感したことはない。寝室から繋がる扉からはトイレやシャワールームなどがある。シリウス自身が使うのも、客を招くのももっぱら寝室ばかりだった。 「俺と戦ったやつは俺と一発やってく決まりなんだよ。お前も獣戦士なら何度も経験あるだろ。もっと強くなるために、俺様のザーメン欲しいだろ」 「ほ、欲しいです……」  シリウスの言葉に、フェクダは素直に返事をする。獣戦士は相手の精液を体内に受け取ることで、相手の強さの一部が身につく……と言われているので、獣戦士同士でセックスをするのはよくあることだった。 「じゃあ、先に身体綺麗にしてこい。このままベッドに転がったら汗臭くなっちまうからな。ああ、あっちの方も綺麗にしとけよ」  フェクダはシリウスの言葉に従いシャワールームで身体を綺麗にする。トイレに置いてあった見知った魔導具を使って尻の中も綺麗にしておく。用意されていたタオルで身体を拭いて寝室に戻ると、入れ替わりにシリウスがシャワールームへ。フェクダがそのまま待っていると、身体を綺麗にしたシリウスが戻ってくる。ベッドに腰を下ろすと、隣にフェクダを座らせる。 「どっちからいく? 先にお前が掘るか?」 「い、いいのか、先に……」 「どうせどっちもやるんだから、どっちからだっていいだろ。ほら、好きなように責めてこい。ああ、あんまりおかしなのはやめろよな。痛めつけるのとか、汚れるのとかはナシだ」 「あ、ああ。じゃあ、始める、ぞっ」  フェクダはシリウスに軽く口付ける……そのつもりだったが、シリウスにやり返されてねっとりと舌を絡ませられ、逆に自分が興奮させられてしまう。どうにか口を離して、上の方から順番に口付け、舌を這わせていく。首筋や乳首、脇の下や脇腹。シャワーを浴びた後なので汗臭くはないが、獣毛に染みついた雄の臭いは、軽く浴びたシャワー程度では消えていなかった。  腹から下腹部へ、獣毛を舌に絡めるように舐めながら、更に下へ。垂れ下がったチンポを口に含むと、口の中でそれがぐんぐん体積を増していき、喉を突く。吐き気を催してしまう前にチンポを吐き出して、適度なところまでをしゃぶる。しばらく味わってから、自分が責めている側なのだということを思い出して口を離す。  シリウスに指示を出して、四つん這いで尻を向けさせると、フェクダはシリウスの尻尾を手で除けながら、尻の谷間に顔を埋める。最初は穴の周辺に丁寧に舌を這わせていく。しっかり舐めてゆっくりほぐしていく。少しだけ開いてきたその穴に、舌先をねじ込んで奥を目指すようにしっかり舐める。 「おお、それ、気持ちいいぞ。舐められてるっていうか、舌に犯されてるような感じだなっ。あー、たまんねえっ」  シリウスが気持ち良さそうに声を上げるのを聞きながら、フェクダはしつこく尻穴を舐め、ほじくっていく。あまりにもしつこく舐めすぎて、シリウスがあきれたような声を出す。 「お前、ちょっとしつこいぞ。反応が良かったからってそればっかりだと相手もすぐに飽きちまうぞ。もうちょっと変わったことでもしてきてみろよ」 「んん、ぷはあっ。ああ、じゃあ……」  フェクダはベッドサイドに、使ったことのあるローションのチューブを見つけてそれを搾り出して指に垂らす。それをシリウスの尻穴に塗りつけ、自分のチンポにも塗りたくる。その状態でシリウスに後ろから抱きつき、シリウスの尻の谷間にチンポを挟むようにして、腰を動かして擦り付ける。 「ふううっ、ああ……」 「おお、なんか、変な感じだな。気持ちいいような、そんなでもないような……あー、やっぱりちょっと、物足りねえ刺激だなっ」  フェクダはチンポを筋肉質な尻たぶに挟まれて扱かれるような形で快感を得る。その刺激では足りないシリウスは尻穴を広げてフェクダのチンポを受け入れようとする。フェクダはしばらくは開いた穴の上を滑るようにチンポを通過させていたが、少しだけ姿勢を変えた時に先端が穴に呑み込まれてしまう。そこからは、尻穴による快感からそう簡単に逃れることができない。 「おおっ……うおお……」  フェクダはそのまま腰を動かし続け、チンポを抜き差しする。シリウスの尻穴はフェクダが今までに経験した相手のものと比べても具合のいい穴だった。そのまま続けとあっという間に達してしまいそうだと判断し、フェクダはチンポを引き抜く。 「なんだ、いいとこだったのに。ああ、今度はこっちか」  フェクダに促されてシリウスが身体を裏返して仰向けになる。そのまま掘るのかと思ったシリウスが自分から脚を曲げて挿れやすい姿勢をとろうとしたが、フェクダの手でそれを止められる。シリウスは仰向けで身体を伸ばしたままフェクダの責め手を待った。  ローションが今度はシリウスの腹のあたりに垂らされる。分厚い腹筋を覆う獣毛にしっかりローションが絡みついたそこに、フェクダはまたチンポを擦り付ける。上半身はシリウスにしっかり抱きついて、腰だけを動かして腹の感触を味わう。単純な快感よりも、とにかく興奮が大きいようだ。シリウスはしばらくやりたいようにさせていたが、このままだとそのまま腹に射精されそうだったので、適当なところで止め、身体を離させる。 「ほら、自分がむさぼるばっかりじゃなくて、ちゃんと相手のことも満足させろ。ほら、擦り付けるばっかりじゃなくて、ちゃんとこっちに突っ込んでこい」  シリウスは今度こそ自分から尻穴を開いてフェクダを誘う。シリウスのその姿に興奮したフェクダは一気にチンポを突っ込んだ。 「おお、そうだっ。もっと突いてこいっ。お前、デカくはないチンポだが、悪くないチンポだな。ああ、結構、イイところに当たるぜっ。おああっ、そこ、ああ、いいぞっ!」  シリウスのチンポから白く濁った汁がどろりと溢れ出てくる。それを長めながら、フェクダはチンポの抜き差しを激しくしていく。さほど時間はかからずに、その瞬間が訪れる。 「ああ、出る、おお、ああああっ!」  フェクダが声を上げて身体を仰け反らせて、シリウスの尻の中に射精する。何度も脈動して大量のザーメンを送り込み、全て出し切ってから引き抜くと、慌ててシリウスの一物に吸い付く。漏れ出た汁まで余さず味わいたいようだ。しっかり舐め取ると、満足したのかシリウスの隣に仰向けで転がった。 「どうだ。俺のケツ、なかなか良い具合だろ。強くなるために、何人もの獣戦士のチンポから搾り取ってきてるからな。ケツでザーメン受けたってほとんど効果ないなんて言う奴もいるが、俺みたいに数重ねてると分かるんだよ。少しずつだがしっかり強くなってるってな」 「そう、なのか……では、俺も、もっと強くなるためには……」 「だから、今度は俺の番だな。お前をたっぷり興奮させて、感じさせてからたっぷりザーメンをくれてやるぞ」 「ああ……頼むっ……」  仰向けのフェクダに、シリウスが覆い被さるようにしてキスをする。それからフェクダがやったように上から順番に吸い付き、舐めていく。同じような事をしているように見えても、シリウスの責めの加減は絶妙で、相手の反応を見ながら適度な強さで弱いところを責めていく。耳、首筋、腋の下から乳首。それから脇腹。敏感なところを刺激して、くすぐったさと快感の混ざったような刺激から、それが快感なのだと身体に教えるように、フェクダを感じさせる。快感に声を上げっぱなしのフェクダは、射精したばかりのチンポを硬く勃ち上がらせて更なる刺激を待つ。だが、シリウスはフェクダのチンポには触れずに離れてしまう。 「今度はこっちだ」  シリウスはフェクダに脚を上げさせて、尻穴を上に向けさせる。そこにローションを塗りたくった指を呑み込ませていく。しばらく探るように尻の中を掻き回してから、探り当てたそこを指で刺激する。強すぎず、優しすぎない適度な刺激で、尻の中のそこを責められたフェクダは、大きな声を上げてしまう。 「うあっ、ああ、ああああっ、そこ、はっ、ああ、うああああっ!」  フェクダは強い刺激から逃れようと身をよじるが、シリウスがそれを許さない。体重を掛けてしっかり押さえつけて、暴れるのフェクダの尻を指で掻き回す。フェクダは声を上げながら、チンポからどばどばと白く濁った汁を漏らす。そのまましばらく責め続けてから、シリウスはやっと指を引き抜く。漏れた汁を舐め取ってから、フェクダを解放する。 「はあ、はあ、あああ……」 「さて。お前のケツを掘る前に……ちょっと、こんなことでもしてみるか」  シリウスはローションと別のボトルを手に取る。その中身を自分のチンポに垂らすと、フェクダの鼻にもその匂いが届く。 「どうだ。好きだろ、蜂蜜」 「ああ、ああ、そんな……」 「ほら、どうすればいいのか、分かるよな?」  フェクダは身体を起こして、シリウスのチンポにしゃぶりつく。先端から根本まで、蜂蜜を丁寧に舐め取る。蜂蜜の甘さにわずかに混ざった先走りの風味が絶妙で、それはフェクダをたまらなく興奮させた。夢中で舐める内に、ぞくぞくとした快感に襲われる。身体を震わせながら、夢中で舐め続けるフェクダの耳にシリウスの言葉が届く。 「なんだ、俺のチンポ舐めてるだけで漏らしちまったのか。もしかしたらと思ってやってみたが……ちょっと効き過ぎたかな。まあいいや。そろそろいいだろ。ケツ開いてこっち向けろ」 「んん、むはあっ、はいいっ!」  フェクダは名残惜しそうにチンポから口を離して、そのまま後ろに転がるような形で仰向けになり、脚を曲げて自分で尻たぶを掴んで開く。シリウスはチンポの蜂蜜を拭き取ってからローションを塗りたくり、フェクダの尻穴にもローションを足す。入り口にチンポの先端をあてがうと、一気に貫いた。 「あああああっ!」  最初の一突きで、フェクダのチンポからは押し出されるように白濁した汁が漏れ出す。シリウスはそれを指ですくい取ると、フェクダ自身に舐めさせる。その間、腰を動かしてチンポを抜き差しさせ、ごりごりと抉るのも忘れない。 「んん、んむううう……はあ、ああ、そこ、いいっ、当たってる……ああ、シリウス……」  フェクダがシリウスの名前を呼ぶと、シリウスはフェクダに覆い被さるようにして顔を近付ける。そして頭をがっしりと掴んで告げる。 「シリウス様、な」 「はいいっ! シリウス様のチンポ、気持ちいいですっ!」 「よしよし。良い子だ」  シリウスはフェクダの頭をぐしゃぐしゃと撫でながら、頬に軽く口付ける。 「ああ、あああっ、シリウス様、俺、ああああっ!」  その口付けがきっかけになったのか、ほとんど触れていないフェクダのチンポから勢いよくザーメンが噴き上がる。シリウスはその様子を満足そうに眺めながら、腰の動きをますます激しくする。 「そろそろ俺も出してやるか。俺のザーメン欲しいんだろ? ちゃんと言ってみろ」 「ああ、シリウス様のっ、ザーメンを、俺の尻の奥に、下さいっ!」 「よしっ。じゃあくれてやるっ。いくぞっ、おお、おああああっ!」  シリウスは抜き差しを激しくして、最後に奥の奥まで突き挿れて動きを止める。最後の一滴まで出し切ってからチンポを引き抜く。 「はあ、はあ、ああ、どうだ、俺とのセックスは?」 「はい……とても、気持ち良かったです……」 「そうかそうか。じゃあ、一休みしたらもう一発いくぞ。まだまだ終わらねえからな」 「はいっ。お願いします!」 「じゃあね、フェクダ。また来てね。来れば獣戦士は誰かしらいると思うから、また模擬戦でもなんでもしにきてもいいし、今度は観光で来てくれても嬉しいな。その時はまた、お菓子も作るからね」 「はいっ。またお邪魔させていただきますっ。今度は是非、レオニスさんも自分の格闘家としての姿を見に来て下さいっ!」 「うん。そのうち観に行くからね」 「是非っ。ではまたっ! シリウス様も、他の方もお元気で!」  フェクダはお土産に蜂蜜やリンゴジャムを持って帰っていった。その姿は、レオニスが最初に見た時よりも少しだけ成長して見えた。昨日の戦いの後よりも疲れているようにも見えたが。そして少しザーメン臭かった。 「また来てくれるかな……」 「たぶんまたすぐ来るぜ。もう俺のことが忘れられなくなってるからな。来たら稽古つけてやって……まあ、その後は、な。今度はお前も混ざるか?」 「あはは。どうしようかなー」